税・社会保険における年収の壁

先日の衆議院総選挙において、与党(自由民主党及び公明党)が議席の過半数を確保できなかったことに伴い、野党・国民民主党が公約として掲げている「年収の壁」の引上げが注目を集めるようになりました。ここで、税及び社会保険に関する年収の壁について、それぞれの内容を確認してみたいと思います。

 

参考:厚生労働省「『年収の壁について知ろう』あなたにベストな働き方とは?」 ※PDF

https://www.mhlw.go.jp/content/001265287.pdf


住民税の壁

※中野市の場合

<93万円の壁>

扶養する配偶者や親族がいない場合、年間の給与収入が93万円以下(合計所得金額が38万円以下)の場合、個人住民税の均等割が非課税となります。なお、当該金額は地方自治体によって異なるため、各地方自治体での取扱いをご確認ください。

 

<100万円の壁>

扶養する配偶者や親族がいない場合、年間の給与収入が100万円以下(合計所得金額が45万円以下)の場合、個人住民税の所得割が非課税となります。

 

参考:中野市「個人住民税のあらまし」

https://www.city.nakano.nagano.jp/docs/2014020600544/



所得税の壁

<103万円の壁>

年間の給与収入が103万円以下の場合、課税所得がゼロとなり、所得税(及び復興特別所得税)が生じません。課税所得の計算において、給与所得控除が55万円(収入に応じて変動)、基礎控除が48万円となっていることから、課税所得がゼロとなります。

 

また、年間の給与収入が103万円以下であれば、その人を扶養する者において、その人を「控除対象扶養親族」とすることができます。これにより、当該扶養する者の所得税の計算おいて「扶養控除」を受けることができます。しかし、103万円を超えてしまうと「控除対象扶養親族」から外れるため、「扶養控除」を受けられなくなります。そのため、一家全体の税負担が増える可能性があります。

 

なお、扶養控除の金額については以下をご参照ください。年齢等で金額が異なります。

国税庁ウェブサイト「タックスアンサー No.1180 扶養控除」

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1180.htm

 

<配偶者に関する103万円・150万円・201万円の壁>

配偶者の場合、上記の扶養控除とは別に「配偶者控除」及び「配偶者特別控除」が設けれらています。

 

配偶者の給与収入が103万円以下の場合、「配偶者控除」が適用されます。配偶者を扶養する者(妻を扶養する場合は夫、夫を扶養する場合は妻)の所得税の計算において課税所得が控除されます(=所得税を減らします)。

 

配偶者の給与収入が103万円超150万円以下の場合、「配偶者特別控除」が適用されます。こちらも、配偶者を扶養する者の所得税の計算において課税所得を控除します。控除金額について、配偶者の年齢が70歳未満であれば、上記の「配偶者控除」と同額となり、計算上不利にはなりません。

 

配偶者の給与収入が150万円超201万円以下の場合にも「配偶者特別控除」が適用されますが、上記とは異なり、収入が増えると控除金額が減る仕組みになっています。201万円までは一定額の控除が受けられますが、これを超えると控除を受けられません。 

 

配偶者控除と配偶者特別控除については、以下をご参照ください。

国税庁ウェブサイト「タックスアンサー No.1191 配偶者控除」

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1191.htm

国税庁ウェブサイト「タックスアンサー No.1195 配偶者特別控除」

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1195.htm



社会保険の壁

<106万円の壁>

お勤め先の企業規模によって、健康保険・厚生年金保険への加入義務が発生する年収が106万円とされています。以下のすべての条件を満たす場合、非正規雇用労働者でも社会保険の加入義務が生じます。

1.月あたりの所定内賃金が8.8万円(年収換算で約106万円)以上

2.従業員数101人以上の事業所に勤務(2024年10月以降は51人以上)

3.週あたりの所定労働時間が20時間以上

4.見込み雇用期間が2カ月以上

5.学生ではない(ただし、休学中や夜間学生は除く)

 

<130万円の壁>

年収が130万円を超える場合、社会保険における扶養の範囲内では無くなるため、社会保険に加入が必須となります。

なお、繁忙期に労働時間が延びた等により、収入が一時的に上がった場合、事業主がその旨を証明することで、引き続き扶養に入り続けることが可能となる仕組みもあります。



上記の他、勤め先によっては、上記の年収の壁に沿う形で配偶者手当や扶養手当を設定していることも考えられます。上記の年収の壁の取扱いが変わることで、これらについても変更が加わる可能性があります。

 

仮に所得税・住民税の壁を変更する場合には、税制改正によって行われることとなります。通常は、毎年12月中に公表される与党税制改正大綱に記載された内容に従って税制改正法案が作成され、その翌年の1月以降に開催される通常国会で当該法案が可決される流れとなります。

 

与党と国民民主党の間における議論が速やかに進んだ場合、本年12月に公表されると思われる与党税制改正大綱に年収の壁に係る具体的な改正が盛り込まれると思われます。